うまれるということ。

あなたは、知らない。
今も、知らない。知るすべがない。
なぜなら、母はもういないから。
あなたは、聞くことが出来ない。
生まれた日の物語を。


だから、わたしの話をするね。

あの日、わたしは泣いたよ。
娘が、うまれたの。
予定日の前日だった。
ずーっとずーっと陣痛あるけど、まだまだ産まれそうにないと言われて、痛みにしゃがみこみながら、休み休み家まで歩いて。
夕方、もう無理だ、と泣きそうになりながら、タクシーに乗って病院に向かったよ。

診察の台には自分でのれたのかな?
もう、忘れてしまった。
ただ、心音を確認するとおかしくてね、即、帝王切開が決まった。
時間外だし、土曜日だし。
帰路に着いた先生を、呼び出す。
みんながバタバタするなか、痛くて、朦朧として、先生が来るのを待つ時間は長かった。



病院に着いてから、四時間半たって、
娘は産まれたよ。
小さく、声が聴こえて、生きてることがわかって、わたしは泣いた。
顔は、お相撲さんのようだったよ。
ありがとう、ありがとう、頑張ったね、ありがとう。
顔見たら、ちょっと笑い泣きになった。

産まれた娘にかける言葉は、ありがとう、しかないんだよ。
頑張ったね、会えたね、ありがとう、ありがとう。

産まれた瞬間、娘の親孝行は終わったと思っているよ。
わたしに、こんな気持ちをくれたんだもの。


あとは、じぶんの思うままに、生きてほしい。
こんな一大事を乗り越えて産まれてきたのだから。


娘の毎日が、笑顔であるように。
娘の毎日が、楽しくあるように。
願っている。


わたしは、娘に、ありえないほどの大きなものをもらった。
だからね、もう、娘からはなにももらわなくてもいいって、思ったよ。
あのときすべて、もらったから。



あなたも、そうやって一大事を越えて、産まれた。
だからね、そんな自分なんだもん、大切にしていいんだよ。

お母さんは、あなたが、父母をこえてしあわせになってくれるのを、願っている。

だからね、自分の感情を大事にしてほしいよ。
あなたは、しあわせになれ、って願われて産まれてるんだから。
自分が、楽しくて嬉しくてわくわくすることをね、どうか、やっていってほしい。



何度もわたしは思い出すよ。
娘のうまれたときの想いを。
感動で動悸がするくらいのものを、今でさえ感じるよ。
ありがとう。


あなたも、そうやって、うまれたよ。きっと。
あなたはお母さんに、直接聞けなくなってしまったけど。
あなたに、ありがとう、って思ってる。